2008年ドバイ、イエーメン

屋外広告物視察 ドバイ、イエーメン 2008
           (2008.8/3~12)

『日本にはない広告手法』 (2008年10月25日「総合報道」紙第1609号掲載文に加筆)

今回、とある出版社の地理研修ツアーに同行し、8月3日から12日までアラブ首長国とイエメンを訪問、各地の屋外広告物を視察した。

【スーク・ムーシッド】

 関西空港から直行便で、「未来都市」と形容されるドバイ市に降り立った私は、初日(4日)の夜、何はともあれ、憧れのネオンサイン集積地、スーク・ムーシッドを訪れた。
 ここは、電化製品を中心とする市場で米国ラスベガス型の大型ネオンこそなかったが、ネオンの物量、色彩の多様さ、早い流れや点滅の集積量に感激した。しかし近年、郊外に大型ショッピングモールが連続出店、廃業する店舗が増えているとのこと(以前、(社)全日本ネオン協会の代表団が訪問された2002年頃がピークだったかもしれない)。
 ネオンとLEDの組み合わせや調光タイプは見かけなかった。しかし、ドバイでは今もネオンサインは健在で、夜の運河の船舶はイルミネーションで装飾していた。

 

↑ポールが突きぬけたタイプ

↑工事現場の大型看板


【シェイク・ザイード通りとドバイ市内外】

 さて、連邦最大の都市・アブダビに通じる片側6車線のシェイク・ザイード通りの市内外には、アラブの国ながら欧米型の広告媒体が溢れていた。米国でおなじみの大型自立看板(ブリテン)はもちろん、横に張り出したポールサインや、ポールが突き抜けたもの、また寸銅にしたり、板面を変形させたりという遊び心もあり、多種多様で楽しめた。また、バスシェルターやストリートファーニチャー、ラッピングバス(窓もOK)などは欧米と差異はなかった。
 しかし、米国も真っ青というべき手法があった。それは、アラブの伝統の上に欧米型をとりいれ、さらに一歩先を行くという感じがした。その最たるものは、「海のナキール社」「陸のエマール社」の大型開発地や大型工事現場などを宣伝する巨大平看板や、高層ビルの長尺ビルラッピング型だ。また、中央分離帯や歩道側の照明灯ポールに行灯広告をつけ、何百メートルも連続設置する手法(単発型、双発型の2種類)、日本型桃太郎タイプののぼり旗(フラッグ)を長列に展開する手法などに目を奪われた。
 さらに、立体交差する歩道橋・車道橋の橋桁や、トンネル入口上部などにも大型内照式広告媒体が設置されている。旺盛な広告意欲であり、広告デザインはすっきりしているものが多かった。またドバイ首長の写真露出度も多かった。街なかにある商店街の店頭看板はネオンやFF内照式、ターポリン、マーキングフィルム、インクジェット出力、一部手描きと我々のなじみの手法で、活気があった。全体的にLEDは少なめで、今度は工場も見学したい。

↑バスシェルター

↑高層ビルの長尺ラッピング


【イエメン】

 途中、3日間ほどアラビア半島南端部のイエメンを訪れた。この国は石油がほとんど出ず、ドバイとの落差は顕著で、広告物の種類、数量は少ない(ただし、今日のドバイは脱石油産業構造とのことで、これはドバイ開発の元締め「DP WORLD」でレクチャーをうけた)。
 しかし、屋外広告物というものは、どこへ行ってもあるもの。首都・サナアはイスラム中世風の都市だったが、正統型のブリテンやストリートファニチャー、壁面、屋外広告もかなりあり、広告主も国際的だった。手法は3面変換ボードが多様され、LEDは少ないが、見かけられた。また、構造計算を無視したかのような、やる気あふれる大型鉄骨組みの立て看板もあり、イスラムの看板業者のバイタリティに親近感が湧いた。
 首都を離れ、東部地方にいくと屋外広告物はさらに少なくなる(全く、ないわけではないが・・・)。「砂漠のマンハッタン」シバーム城壁内の魚屋、織物屋の店頭看板、セイユーン銀行看板や政治家(?)のポスター、さらに、オサマ・ビンラディン一族の出身地であるワディドアン渓谷にはトタンペンキ描きの渓谷地図が、灼熱の乾燥地に立っており、てっぺんのテーブルマウンテン奥地交差点には突然、ブリテンが1本突っ立ていた。アラビア海の瀟洒な港町ムッカラは、景観条例があるのか(もしれないが)白壁・紺碧の景観ですっきりしていた。
 このお堅いイスラム国でも、広告にはブルカ(顔を覆う黒衣)なしの女性が登場している(サナアシテイモールの広告)。ユーモアあふれる、”くにゃくにゃポール”の路上看板(CAC BANK)にも笑ってしまった。また、今回はアラビア特有のアラベスク模様を多数見ることができ、デザイン上でも大変勉強になった。


 最後に、特にドバイ(及びこれまで複数国の視察)で感じたことだが、日本にはない広告手法が多数あり、日本でも取り入れたらどうだろうか。取り入れたくても、高さや壁面面積、禁止物件、工法などの規制がネックだと思われるが、規制緩和や法令改正で、屋外広告業者や広告主のエネルギーを併せることで、それが景気回復や新たな景観形成につながると確信したい。